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行人・夏目漱石

25

朗読者: VOICEVOX Nemo / ノーマル選択中朗読を再生できる

二十九

二三日してから自分はとうとう家を出た。父や母や兄弟の住む、古い歴史をもった家を出た。出る時はほとんど何事をも感じなかった。母とお重が別れをおしむように浮かない顔をするのが、かえっていやであった。彼らは自分の自由行動をわざと妨げるように感ぜられた。あによめだけはさみしいながら笑ってくれた。「もう御出掛。では御機嫌ごきげんよう。またちょくちょく遊びにいらっしゃい」自分は母やお重の曇った顔を見たあとで、この一口の愛嬌を聞いた時、多少の愉快を覚えた。自分は下宿へ移ってからも有楽町の事務所へ例の通り毎日かよっていた。自分をそこへ周旋してくれたものは、例の三沢であった。事務所の持主は、昔三沢の保証人をしていた(兄の同僚の)Hの叔父にあたる人であった。この人は永らく外国にいて、内地でも相応に経験を積んだ大家であった。胡麻塩頭ごましおあたまの中へ指を突っ込んで、むやみに頭垢ふけを掻き落す癖があるので、むかいの間に火鉢ひばちでも置くと、時々火の中から妙なにおいを立てさせて、ひどく相手を弱らせる事があった。「君の兄さんは近来何を研究しているか」などとたびたび自分に聞いた。自分は仕方なしに、「何だか一人で書斎にこもってやってるようです」きわめて大体な答えをするのを例のようにしていた。梧桐あおぎりが坊主になったある朝、彼は突然自分をとらえて、「君の兄さんは近頃どうだね」とまた聞いた。こう云う彼の質問に慣れ切っていた自分も、その時ばかりは余りの不意打にちょっと返事を忘れた。「健康はどうだね」と彼はまた聞いた。「健康はあまり好い方じゃないです」と自分は答えた。「少し気をつけないといけないよ。あまり勉強ばかりしていると」と彼は云った。自分は彼の顔を打ち守って、そこに一種の真面目まじめまゆと眼の光とを認めた。自分は家を出てから、まだ一遍しかうちへ行かなかった。その折そっと母を小蔭こかげに呼んで、兄の様子を聞いて見たら「近頃は少し好いようだよ。時々裏へ出て芳江をブランコに載せて、押してやったりしているからね。自分はそれで少しは安心した。それぎりうちの誰とも顔を合わせる機会をこしらえずに今日こんにちまで過ぎたのである。昼の時間に一品料理を取寄せて食っていると、B先生(事務所の持主)がまた突然「君はたしか下宿したんだったね」と聞いた。自分はただ簡単に「ええ」と答えておいた。「なぜ。家の方が広くって便利だろうじゃないか。それとも何か面倒な事でもあるのかい」自分はぐずついてすこぶる曖昧あいまい挨拶あいさつをした。その時み込んだ麺麭パン一片いっぺんが、いかにも水気がないように、ぱさぱさと感ぜられた。「しかし一人の方がかえって気楽かも知れないね。大勢ごたごたしているよりも。――時に君はまだ独身だろう、どうだ早く細君でももっちゃ」自分はB先生のこの言葉に対しても、平生の通り気楽な答ができなかった。先生は「今日は君いやに意気銷沈いきしょうちんしているね」と云ったぎり話頭を転じて、ほかのものと愚にもつかない馬鹿話を始め出した。自分は自分の前にある茶碗の中に立っている茶柱を、何かの前徴のごとく見つめたぎり、左右に起る笑い声を聞くともなく、また聞かぬでもなく、黙然もくねんと腰をかけていた。そうして心のうちで、自分こそ近頃神経過敏症にかかっているのではなかろうかと不愉快な心配をした。自分は下宿にいてあまり孤独なため、こう頭に変調を起したのだと思いついて、帰ったら久しぶりに三沢の所へでも話に行こうと決心した。

三十

その晩三沢の二階に案内された自分は、気楽そうに胡坐あぐらをかいた彼の姿を見てうらやましい心持がした。彼のへやは明るい電灯と、暖かい火鉢ひばちで、初冬はつふゆの寒さから全然隔離されているように見えた。自分は彼の痼疾こしつが秋風の吹きつのるに従って、漸々ぜんぜん好い方へ向いて来た事を、かねてから彼の色にも姿にも知った。けれども今の自分と比較して、彼がこうゆったり構えていようとは思えなかった。高くて暑い空を、恐る恐る仰いで暮らした大阪の病院をおもい起すと、当時の彼と今の自分とは、ほとんど地を換えたと一般であった。彼はつい近頃父を失った結果として、当然一家の主人に成り済ましていた。Hさんを通してB先生から彼を使いたいと申し込まれた時も、彼はまずおのれをのちにするという好意からか、もしくは贅沢ぜいたく択好よりごのみからか、せっかくの位置を自分に譲ってくれた。自分は電灯で照された彼の室を見廻して、その壁を隙間すきまなく飾っている風雅なエッチングや水彩画などについて、しばらく彼と話し合った。けれどもどういうものか、芸術上の議論は十分つか経たないうちに自然と消えてしまった。すると三沢は突然自分に向って、「時に君の兄さんだがね」と云い出した。自分はここでもまた兄さんかと驚いた。「兄がどうしたって?」「いや別にどうしたって事もないが……」彼はこれだけ云ってただ自分の顔を眺めていた。自分は勢い彼の言葉とB先生の今朝の言葉とを胸のうちで結びつけなければならなかった。「そう半分でなく、話すならみんな話してくれないか。兄がいったいどうしたと云うんだ。今朝もB先生から同じような事を聞かれて、妙な気がしているところだ」三沢は焦烈じれったそうな自分の顔をなお懇気こんきに見つめていたが、やがて「じゃ話そう」と云った。「B先生の話も僕のもやっぱり同じHさんから出たのだろうと思うがね。Hさんのはまた学生から出たのだって云ったよ。何でもね、君の兄さんの講義は、平生から明瞭めいりょうで新しくって、大変学生に気受きうけが好いんだそうだが、その明瞭な講義中に、やはり明瞭ではあるが、前後とどうしても辻褄つじつまの合わない所が一二箇所出て来るんだってね。そうしてそれを学生が質問すると、君の兄さんは元来正直な人だから、何遍も何遍も繰返して、そこを説明しようとするが、どうしても解らないんだそうだ。しまいに手を額へ当てて、どうも近来頭が少し悪いもんだから……とぼんやり硝子窓ガラスまどの外を眺めながら、いつまでも立っているんで、学生も、そんならまたこの次にしましょうと、自分の方で引き下がった事が、何でも幾遍もあったと云う話さ。Hさんは僕に今度長野(自分の姓)ったら、少し注意して見るが好い。ことによるとはげしい神経衰弱なのかも知れないからって云ったが、僕もとうとうそれなり忘れてしまって、今君の顔を見るまで実は思い出せなかったのだ」「そりゃいつ頃の事だ」と自分はせわしなく聞いた。「ちょうど君の下宿する前後の事だと思っているが、判然はっきりした事は覚えていない」「今でもそうなのか」三沢は自分の思いせまった顔を見て、慰めるように「いやいや」と云った。「いやいやそれはほんに一時的の事であったらしい。この頃では全然平生と変らなくなったようだと、Hさんが二三日にさんち前僕に話したから、もう安心だろう。しかし……」自分はうちを出た時に自分の胸に刻み込んだ兄との会見を思わずおもい出した。そうしてその折の自分の疑いが、あるいは学校で証明されたのではなかろうかと考えて、非常に心細くかつ恐ろしく感じた。

三十一

自分はつとめて兄の事を忘れようとした。するとふと大阪の病院で三沢から聞いた精神病の「娘さん」聯想れんそうし始めた。「あのお嬢さんの法事には間に合ったのかね」と聞いて見た。「間に合った。間に合ったが、実にあの娘さんの親達は失敬ないややつだ」と彼は拳骨げんこつでも振り廻しそうな勢いで云った。自分は驚いてその理由を聞いた。彼はその日三沢家を代表して、築地の本願寺の境内けいだいとかにある菩提所ぼだいしょ参詣さんけいした。薄暗い本堂で長い読経どきょうがあった後、彼も列席者の一人として、一抹いちまつの香を白い位牌いはいの前にいた。彼の言葉によると、彼ほどの誠をもって、その若く美しい女の霊前にぬかずいたものは、彼以外にほとんどあるまいという話であった。「あいつらはいくら親だって親類だって、ただ静かなお祭りでもしている気になって、平気でいやがる。本当に涙を落したのは他人のおれだけだ」自分は三沢のこういう憤慨を聞いて、少し滑稽こっけいを感じたが、表ではただ「なるほど」うけがった。すると三沢は「いやそれだけなら何も怒りゃしない。しかししゃくさわったのはそのあとだ」彼は一般の例に従って、法要の済んだあと寺の近くにある或る料理屋へ招待された。その食事中に、彼女の父に当る人や、母に当る女が、彼に対してはなしをするうちに妙に引っ掛って来た。何の悪意もない彼には、最初いっこうその当こすりが通じなかったが、だんだん時間の進むに従って、彼らの本旨ほんしがようやく分って来た。「馬鹿にもほどがあるね。露骨にいえばさ、あの娘さんを不幸にした原因は僕にある。精神病にしたのも僕だ、とこうなるんだね。そうして離別になった先の亭主は、まるで責任のないように思ってるらしいんだから失敬じゃないか」「どうしてまたそう思うんだろう。そんなはずはないがね。君の誤解じゃないか」と自分が云った。「誤解?」と彼は大きな声を出した。自分は仕方なしに黙った。彼はしきりにその親達の愚劣な点を述べたててやまなかった。その女の夫となった男の軽薄をののしってかなかった。しまいにこう云った。「なぜそんなら始めから僕にやろうと云わないんだ。資産や社会的の地位ばかり目当めあてにして……」「いったい君はもらいたいと申し込んだ事でもあるのか」と自分は途中でさえぎった。「ないさ」と彼は答えた。「僕がその娘さんに――その娘さんの大きなうるおった眼が、僕の胸を絶えず往来ゆききするようになったのは、すでに精神病にかかってからの事だもの。僕に早く帰って来てくれと頼み始めてからだもの」彼はこう云って、依然としてその女の美しいおおきひとみを眼の前に描くように見えた。もしその女が今でも生きていたならどんな困難をおかしても、愚劣な親達の手から、もしくは軽薄な夫の手から、永久に彼女を奪い取って、おのれのふところで暖めて見せるという強い決心が、同時に彼の固く結んだ口のあたりに現れた。自分の想像は、この時その美しい眼の女よりも、かえって自分の忘れようとしていた兄の上に逆戻りをした。そうしてその女の精神にたたった恐ろしい狂いが耳に響けば響くほど、兄の頭が気にかかって来た。兄は和歌山行の汽車の中で、その女はたしかに三沢を思っているに違ないと断言した。精神病で心のはばかりが解けたからだとその理由までも説明した。兄はことによると、あによめをそういう精神病にかからして見たい、本音を吐かせて見たい、と思ってるかも知れない。そう思っている兄の方が、はたから見ると、もうそろそろ神経衰弱の結果、多少精神に狂いを生じかけて、自分の方から恐ろしい言葉を家中に響かせて狂い廻らないとも限らない。自分は三沢の顔などを見ている暇をもたなかった。

三十二

自分はかねて母から頼まれて、この次もし三沢の所へ行ったら、彼にお重を貰う気があるか、ないか、それとなく彼の様子を探って来るという約束をした。しかしその晩はどうしてもそういう元気が出なかった。自分の心持を了解しない彼は、かえって自分に結婚を勧めてやまなかった。自分の頭はまたそれに対して気乗きのりのした返事をするほど、穏かに澄んでいなかった。彼は折を見て、ある候補者を自分に紹介すると云った。自分は生返事をして彼の家を出た。外は十文字に風が吹いていた。仰ぐ空には星がのごとくささやかな力を集めて、この風に抵抗しつつ輝いた。自分はわびしい胸の上に両手を当てて下宿へ帰った。そうして冷たい蒲団ふとんの中にすぐもぐり込んだ。それから二三日にさんちしても兄の事がまだ気にかかったなり、頭がどうしても自分と調和してくれなかった。自分はとうとう番町へ出かけて行った。直接兄に会うのがいやなので、二階へはとうとうあがらなかったが、母を始めほかの者には無沙汰見舞ぶさたみまいの格で、何気なく例の通りの世間話をした。兄を交えない一家の団欒だんらんはかえってくつろいだ暖かい感じを自分に与えた。自分は帰りぎわに、母をちょっと次の間へ呼んで、兄の近況を聞いて見た。母はこの頃兄の神経がだいぶ落ちついたと云って喜んでいた。自分は母の一言いちごんでやっと安心したようなものの、母には気のつかない特殊の点に、何だか変調がありそうで、かえってそれが気がかりになった。さればと云って、兄に会って自分から彼を試験しようという勇気は無論起し得なかった。三沢から聞いた兄の講義が一時変になった話も母には告げ得なかった。自分は何も云う事のないのに、ぼんやり暗い部屋のふすまかげに寒そうに立っていた。母も自分に対してそこを動かなかった。その上彼女の方から自分に何かいう必要を認めるように見えた。「もっともこの間少し風邪かぜを引いた時、妙な囈語うわごとを云ったがね」と云った。「どんな事を云いました」と自分は聞いた。母はそれには答えないで、「なに熱のせいだから、心配する事はないんだよ」と自分の問を打ち消した。「熱がそんなに有ったんですか」と自分はさらに別の事を尋ねた。「それがね、熱は三十八度か八度五分ぐらいなんだから、そんなはずはないと思って、お医者に聞いて見ると、神経衰弱のものは少しの熱でも頭が変になるんだってね」医学の初歩さえ心得ない自分は始めてこの知識に接して、思わずまゆをひそめた。けれどもへやが暗いので、母には自分の顔が見えなかった。「でも氷で頭を冷したら、そのお蔭で熱がすぐ引いたんで安心したけれど……」自分は熱の引かない時の兄が、どんな囈語を云ったか、それがまだ知りたいので、薄ら寒い襖の蔭に依然として立っていた。次のは電灯で明るく照されていた。父が芳江に何か云って調戯からかうたびに、みんなの笑う声が陽気に聞こえた。すると突然その笑い声の間から、「おい二郎」と父が自分を呼んだ。「おい二郎、また御母さんに小遣こづかいでも強請せびってるんだろう。お綱、お前みたように、そうむやみに二郎の口車に乗っちゃいけないよ」と大きな声で云った。「いいえそんな事じゃありません」と自分も大きな声で負けずに答えた。「じゃ何だい、そんな暗い所で、こそこそ御母さんをつらまえて話しているのは。おい早くあかるい所へつらを出せ」父がこう云った時、明るいへやの方に集まったものは一度にどっと笑った。自分は母から聞きたい事も聞かずに、父の命令通り、はいと云って、みんなの前へ姿をあらわした。

三十三

それからしばらくの間は、B先生の顔を見ても、三沢の所へ遊びに行っても、兄の話はいっこう話題にのぼらなかった。自分は少し安心した。そうしてなるべくうちの事を忘れようと試みた。しかし下宿の徒然とぜんに打ち勝たれるのが何より苦しいので、よく三沢の時間をつぶしにこっちから押し寄せたり、また引っ張り出したりした。三沢はきずにいつまでも例の精神病の娘さんの話をした。自分はこの異様なおのろけを聞くたびに、きっと兄とあによめの事を連想しておのずから不快になった。それで、時々またかという様子を色にも言葉にも表わした。三沢も負けてはいなかった。「君も君のおのろけを云えば、それで差引損得なしじゃないか」などと自分を冷かした。自分はもうちっとで彼と往来で喧嘩けんかをするところであった。彼にはこういう風に、精神病の娘さんが、影身かげみに添って離れないので、自分はかねて母から頼まれたお重の事を彼に話す余地がなかった。お重の顔は誰が見ても、まあ十人並以上だろうと、仲のくない自分にも思えたが、おしい事に、この大切な娘さんとは、まるで顔の型が違っていた。自分の遠慮に引き換えて、彼は平気で自分に嫁の候補者を推挙した。今度こんだどこかでちょっと見て見ないか」と勧めた事もあった。自分は始めこそなま返事ばかりしていたが、しまいは本気にその女に会おうと思い出した。すると三沢は、まだ機会が来ないから、もう少し、もう少し、と会見の日を順繰じゅんぐりに先へ送って行くので、自分はまた気を腐らした末、ついにその女のまぼろしを離れてしまった。反対に、お貞さんの方の結婚はいよいよ事実となってあらわるべく、目前にちかづいて来た。お貞さんは相応の年をしている癖に、宅中うちじゅうで一番初心うぶな女であった。これという特色はないが、何を云っても、じき顔を赤くするところに変な愛嬌あいきょうがあった。自分は三沢と夜更よふけに寒い町を帰って来て、下宿の冷たい夜具にもぐり込みながら、時々お貞さんの事を思い出した。そうして彼女もこんな冷たい夜具を引きかつぎながら、今頃は近い未来にせまる暖かい夢を見て、誰も気のつかない笑い顔を、なか天鵞絨びろうどえりなかうずめているだろうなどと想像した。彼女の結婚する二三日前に、岡田と佐野は、氷を裂くような汽車の中から身をふるわして新橋の停車場ステーションに下りた。彼は迎えに出た自分の顔を見て、いようという掛声かけごえをした。それから「相変らず二郎さんは呑気のんきだね」と云った。岡田はおのれの呑気さ加減を自覚しない男のようにも思われた。翌日番町へ行ったら、岡田一人のために宅中うちじゅう騒々しくにぎわっていた。兄もほかの事と違うという意味か、別ににがい顔もせずに、その渦中かちゅう捲込まきこまれて黙っていた。「二郎さん、今になって下宿するなんて、そんな馬鹿がありますか、うちさびしくなるだけじゃありませんか。ねえおなおさん」と彼はあによめに話しかけた。この時だけは嫂もさすが変な顔をして黙っていた。自分も何とも云いようがなかった。兄はかえって冷然とすべてに取り合わない気色けしきを見せた。岡田はすでに酔って何事にも拘泥こうでいせずへらへら口を動かした。「もっとも一郎さんも善くないと僕は思いますよ。そうあなた、書斎にばかり引っ込んで勉強していたって、つまらないじゃありませんか。もうあなたぐらい学問をすれば、どこへ出たって引けを取るんじゃないんだからね。しかし二郎さん始め、お直さんや叔母さんも好くないようですね。一郎は書斎よりほかは嫌いだ嫌いだって云っときながら、僕が来てこう引っ張り出せば、訳なく二階から下りて来て、僕と面白そうに話してくれるじゃありませんか。そうでしょう一郎さん」彼はこう云って兄の方を見た。兄は黙って苦笑にがわらいをした。「ねえ叔母さん」母も黙っていた。「ねえお重さん」彼は返事を受けるまで順々に聞いて廻るらしかった。お重はすぐ「岡田さん、あなたいくら年を取っても饒舌しゃべる病気がなおらないのね。騒々しいわよ」と云った。それでみんなが笑い出したので、自分はほっといきいた。

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